事例の背景
「実家の名義さえ変えれば、すべて終わると思っていたんです……」
札幌市北区にお住まいのK様が当事務所を訪れた際、その表情には隠しきれない疲労の色が浮かんでいました。亡くなったお父様の名義のままになっていたご実家。そこにはK様が同居し、長年お父様の介護も担ってきました。しかし、いざ相続の手続きを始めようと東京に住むお兄様に連絡をしたところ、思いもよらない反応が返ってきたのです。
当初、K様はご自身でインターネットを調べ、「遺産分割協議書」の雛形をダウンロードして書類を作ろうと試みました。「介護も私が見てきたし、お兄ちゃんも分かってくれるはず」という淡い期待。しかし、いざ電話をしてみると、お兄様からは「自分にも法定相続分があるはずだ」「今の家を売って現金を分けるのが公平ではないか」と、権利を主張する言葉が返ってきました。
幼い頃は仲の良かった兄妹。それが、お金と不動産の話になった途端、お互いに感情的な言葉をぶつけ合うようになってしまったそうです。K様は「自分が良かれと思って提案したことが、火に油を注いでしまった」とひどく落ち込み、夜も眠れない日々が続きました。
「このままでは家族の仲が完全に壊れてしまう。でも、家を売るわけにはいかない……」
八方塞がりの状況で、自分一人ではこれ以上の対話は不可能だと痛感し、プロの客観的な視点を求めて当事務所のドアを叩かれたのが始まりでした。
当事務所からのご提案
K様からお話を伺い、私はまず「今、お兄様と直接お話しされるのは一度お休みしましょう」とお伝えしました。感情が先立っている状態で話し合いを続けても、溝が深まるばかりだからです。
そのうえで、以下の3つのステップによる解決プランをご提案しました。
① 「現状の見える化」と「介護寄与」の適正な評価
多くの相続トラブルの原因は、「何がどれくらいあるのか」という情報が不明透明なことにあります。まずは不動産の査定を客観的に行い、さらにK様がこれまで担ってきた介護の負担や、実家の維持管理にかかってきた経費をすべて数値化しました。これを「主張」ではなく「データ」として提示することで、お兄様の疑念を払拭することを目指しました。
② 第三者による「中立な説明」の実施
K様がお兄様に説明すると、どうしても「自分の都合の良いように言っている」と受け取られがちです。そこで当事務所が、お兄様に対して「司法書士という専門家としての立場」で、法律上のルールと現状の落とし所を丁寧に説明する役割を担いました。お兄様にも納得いただけるよう、不動産を売却した場合の税金や経費のリスクも含めた「現実的なシミュレーション」を提示したのです。
③ 換価分割ではなく「代償分割」の活用
K様のご実家を守りたいという強い希望を叶えるため、家はK様が継ぎ、その代わりにお兄様にはまとまった現金を支払う「代償分割」をご提案しました。お兄様が懸念していた「不公平感」を現金の支払いで解消しつつ、K様にとっては「納得できる金額」の範囲内で着地させる。このバランス調整こそが、今回の専門家としての腕の見せ所でした。
お客様によくある誤解として「法律通りに分ければ解決する」というものがありますが、現実はそう甘くありません。法律はあくまで目安であり、本当に大切なのは「これなら仕方ない」と思える納得感の醸成です。私は、書類を作るためではなく、家族が再び笑って会えるようにするためのロードマップを作成しました。
お客様の声
もっと早く相談していれば、あんなに兄とギスギスせずに済んだのに、というのが正直な感想です。自分で調べた知識で無理に説得しようとして、逆に兄を怒らせてしまったことが一番の反省点でした。
先生が入ってくださってから、あんなに頑なだった兄の態度がスッと軟化したのには驚きました。やはり、家族以外の専門家が「客観的な数字」を出してくれる安心感はすごいですね。おかげさまで、協議書に印鑑をもらう際も、最後は「今まで親父の面倒を見てくれてありがとうな」と言ってもらえました。
もしあのまま自分たちだけで進めていたら、今頃は絶縁状態になっていたかもしれません。札幌で相続に悩んでいる方は、感情がこじれる前に、ぜひ一度お話しを聞いてみることをおすすめします。