ご相談の経緯
賃貸アパートの認知症対策をめぐる、賃貸アパートオーナーの父親様と同居する長女様からのご相談です。札幌市東区で築30年を超えるアパート1棟を長く経営してこられた方です。
発端は、父親様の「自分に何かあったとき、家賃の管理や修繕の判断が止まるのが心配だ」というお気持ちでした。アパートは近いうちに屋根と外壁の大規模修繕が必要な状態で、まとまった判断を控えていた時期でもありました。
ご心配の中心は、認知症になると修繕の契約や借入、新しい入居者との賃貸借契約ができなくなる、という点でした。これまで家賃や修繕の判断は父親様お一人で担ってこられ、近ごろは同居の長女様に相談することが増えていたそうです。
家族は長女様と、札幌市内に住む次女様のお二人です。次女様は経営に関わっておられないため、将来の遺産分けで不公平感が出ないかという点も気がかりでした。経営を止めない備えと家族の納得を両立させる方法が自分たちだけでは分からず、「札幌 家族信託」と検索して当事務所のページを見つけ、ご相談くださいました。
ご提案と対応
最初に整理したのは、「経営を止めない備え」と「次女様の納得」を分けて考える、という着眼点でした。修繕や契約を続けられる仕組みと、将来の遺産分けの公平感は、別の手当てが必要になるためです。
そのうえで、成年後見・生前贈与・家族信託の3つを比べてご説明しました。後見は家庭裁判所の関与で柔軟な売却や借入が難しくなること、贈与は税負担が重くなりやすいことをお伝えしました。報酬・登録免許税・公証役場の手数料といった費目の内訳も、その場でお示ししています。
ご相談者のご希望に最も合うのが、家族信託契約の公正証書化と信託登記でした。これは、父親様が元気なうちに財産の管理権限をご家族に託し、その内容を公正証書で残し、不動産に信託の登記をしておく仕組みです。父親様を委託者兼受益者、長女様を受託者とし、信託財産はアパートの土地・建物と家賃が入る預貯金としました。
契約には、受託者が賃貸借契約・修繕契約・必要に応じた借入や売却を行える権限を明記しました。家賃収入は父親様の生活費と修繕積立に使う目的を定め、次女様には受益者代理人として内容を確認できる立場を設けています。将来の遺産分割で不公平感が出ないよう、次女様に預貯金を多く渡す旨を遺言書で補いました。
手続きは、契約書案の作成から公証役場での公正証書化、法務局での信託登記まで一括で進めました。あわせて信託専用口座の開設、入居者や管理会社への家賃振込先変更の案内まで当事務所で対応しています。税負担の確認は連携する税理士に事前にお願いし、ご家族3名の面談でお気持ちをすり合わせながら各手続きを進めていきました。
結果
初回相談から約2ヶ月で、公正証書による信託契約を締結できました。父親様の判断能力に問題がないうちに手続きを終えられたことで、経営を止めない備えが現実の形になりました。
契約締結後は約3週間で、アパートの信託登記と信託口座の開設、管理会社との振込先変更まで完了しています。信託口座とは、託された財産を父親様ご自身の口座と分けて管理するための専用口座です。これにより、家賃の入出金と父親様の生活費が混ざらない状態になりました。
登記の申請や口座開設に必要な書類の作成は当事務所で代行しました。ご相談者には、公証役場での署名押印と本人確認書類のご準備だけをお願いし、ご家族が各所を回る負担は抑えられています。翌年に予定していた屋根と外壁の大規模修繕も、受託者となった長女様の判断で契約できる見通しが立ちました。
父親様がお元気なうちから、長女様が経営を少しずつ引き継ぐ練習ができる形になりました。経営に関わらない次女様にも、受益者代理人として内容を確認できる立場を設けたことで、将来の遺産分けへの不安が和らいだとのことです。ご家族3名で同じ内容を共有できた点が、何よりの成果になりました。
お客様の声
手続きを終えたあと、父親様は長年の経営を振り返りながら、お気持ちをこう話してくださいました。
「アパートのことは自分が全部やってきたので、娘に任せるのは正直不安でした。でも信託の仕組みを先生から聞いて、自分が見ている間に娘が慣れていけるのが一番安心だと思えました。次女にも納得してもらえて良かったです。」
ご自身が元気なうちに少しずつ引き継げる形を整え、ご家族の納得まで両立できたことが、何よりのご安心につながったと感じています。
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