ご相談の経緯
食料品店を営む父親と、その店を手伝う長男様からの、事業承継の不安をめぐるご相談です。数年のうちに店を長男様へ譲りたいが、何から準備すればよいか分からないというお話から始まりました。
店舗兼住宅と隣接する駐車場の土地建物は、いずれも父親の名義のままでした。店には金融機関からの運転資金の借入もあり、事業は現役で続いている状況です。
父親が気にされていたのは、「もし自分が認知症になったら、店舗の修繕も借入も名義変更もできなくなるのではないか」という点でした。判断能力が落ちた場合に事業資金の管理が止まることを、長男様も心配されていました。生前贈与も考えたものの、贈与税の負担と、市外に嫁いだ長女様との公平感が気になり、決め手に欠けていたそうです。
ご自身で調べても、どの方法が家族の事情に合うのか判断がつかず、話が前に進まないままになっていました。そこで「札幌 家族信託」と検索して当事務所のページを見つけ、ご相談くださいました。
ご提案と対応
まず私たちが整理したのは、「数年内の店の引き継ぎ」と「認知症になった場合の備え」を切り分ける点でした。この二つを一つの方法でまとめようとすると、かえって話が止まりやすくなるためです。
ご相談の時点では、生前贈与も検討されていました。ただ贈与税の負担や、市外に嫁いだ長女様との公平感が気がかりとのことでした。成年後見という方法もありますが、家庭裁判所の関与が続き、店舗の売却や建て替えといった事業判断が機動的に行いにくい面があります。
そこでご提案したのが家族信託です。家族信託とは、財産の管理や処分の権限を信頼できる家族に託しておく契約で、今回は父親を委託者兼受益者、長男様を受託者とする形にしました。信託財産は清田区の店舗兼住宅と駐車場の土地建物、そして事業用の預貯金の一部としています。
契約には、受託者が店舗の修繕・建て替え・担保設定・賃貸や売却を行える権限を明記しました。父親がお元気なうちは従来どおりご判断を尊重し、万一認知症になった場合でも、長男様が事業を止めずに続けられる設計です。
事業そのものの承継や長女様への配慮は、信託とは別に公正証書遺言で整理することをご提案しました。運転資金の借入がある店舗については、金融機関に信託の内容を事前に説明し、借入の継続について確認を取りました。この協議にはご相談者にも同席いただいています。
手続きとしては、契約書案の作成から、公証役場での公正証書化、法務局での信託登記、信託専用口座の開設までを当事務所で一括してお引き受けしました。信託財産に含める預貯金の確認のため、父親には口座の整理にもご協力いただきました。
結果
初回相談から約3ヶ月で、公正証書による信託契約の締結に至りました。父親を委託者兼受益者、長男様を受託者とし、店舗兼住宅と駐車場の土地建物、事業用預貯金の一部を信託財産としています。
信託契約書には、受託者の報告義務や信託財産の管理方法もあわせて定めました。これにより、長男様が権限の範囲を迷わず、父親の資産を分けて管理できる形になっています。
契約後は約3週間で、店舗兼住宅と駐車場の信託登記、信託専用口座の開設が完了しました。これらの手続きは当事務所で一括してお引き受けし、ご相談者には信託財産に含める預貯金の口座整理にご協力いただいた程度で済みました。
父親が認知症になっても、店舗の維持管理と事業資金の管理が止まらない体制が整いました。長女様にも事前に趣旨が伝わっていたため、ご家族の間で誤解が生まれず、長男様は安心して店の引き継ぎ準備を進められるようになりました。
お客様の声
契約後、父親と長男様から次のようなお言葉をいただきました。
「店を続けるために何を準備すればいいのか、銀行のことも含めて先生が一つずつ整理してくれました。娘にも事前に説明してもらえたので、家族の中で変な誤解が生まれずに済みました。」
家族の事情に合わせて優先順位を整理し、ご家族全員に趣旨が伝わる形で進めたことを、こうして評価いただけたのは私たちにとって何よりの励みです。
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